【第41回例会】音楽に秘められた無限の力

日時:2018年2月23日 (金) 18:15~21:00(17:30開場~)
・開催場所:日仏文化協会内 「汐留ホール」
港区東新橋1-7-2 汐留メディアタワーアネックス1F

【開催のご挨拶 会長 安田豊氏】P1010148

【基調講演】

講演者・演奏者: 東京藝術大学 学長 澤 和樹 / ピアニスト 村田 千佳様
和歌山市出身のバイオリニストで、2017年から東京藝術大学の学長の澤和樹先生に『音楽に秘められた無限の力』と題し、音楽の潜在的な力が持つ大きな可能性についてご講演いただきました。また同じ和歌山ご出身のピアニスト村田千佳さんと共演いただき大変有意義な時間を過ごすことができました。

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音楽との出会い、バイオリンとの出会い
 3歳の頃、母に読んでもらった絵本『3びきのこぶた』の1匹がバイオリンを楽しそうに弾いていたのに興味を示したのが、きっかけでバイオリンを始めました。普通の家庭で、決して音楽的素養があったわけではなかったが、当時は才能教育と呼ばれ音楽の早期教育が注目され始めた頃で、オルガン教室に通いはじめました。「音楽を子供の頃からやらせると良い子に育つ。」と日本コロムビアに勤める伯父が勧めたこともあり、8分の1サイズのバイオリンを買い、そこの楽器店の二階で教えていた先生に入門。
 当時のバイオリンは弓とバイオリンケースも込みで3,000円でおつりがくるくらいでしたが、今日の紀友会で演奏しますバイオリンは、1732年にイタリアのクレモナというところで作られた『ガルネリ・デル・ジェス』とういう名工が製作したバイオリンで、同じ作家の1732年の楽器が8億円ほどで取引されているようです。小学2年生ぐらいからは、ピアノや音感教育も本格的に受けることになり大阪までレッスンを、4年生からは相愛学園というところで音感教育と子供のためのオーケストラに通うようになりました。

音楽家への道
 高校へは、父の猛反対にあい、県立の桐蔭高校に進学することになりました。今となれば、普通高校に進学したことで文化祭や野球の応援など音楽学校では経験できない幅広い勉強や友人たちにも恵まれ、楽しい高校生活を送りました。音楽だけでなく、医者や建築家になることを夢見たりしましたが、結局、東京芸大を受験して、音楽家への道を歩むこととなりました。
 大学院修了間際には、NHK交響楽団のコンサートマスター候補として入団。半年後、NHK交響楽団のソリストとして来日した、ジョージパークというロンドン在住のバイオリニストに出会いあまりにも素晴らしい演奏に魅せられ、N響を8カ月で退団し、ロンドンに留学。4年後の29歳、東京芸大で教えることになって以来、今まで30年以上たつということです。

今後の東京芸大での取り組み
 2016年の秋に発行された二宮敦人さん著作の『最後の秘境、東京芸大』(新潮社)が12万部超えのベストセラーになり、そのキャッチコピーが、「東大の3倍もの入試倍率」や、「卒業後は行方不明者多数」といった内容で東京芸大が非常に注目されたことがありました。2017年9月の大学祭「芸祭」には、8つのテレビ局から取材申し込みがあり、私もテレビ朝日の『題名のない音楽会』で学生たちとサンバを踊っている画像が流れたりして、踊る学長としてちょっと有名になりました。
 東京芸大の学長という立場になり、芸術のもつ力を何とか世の中に知って頂き、学生や卒業生が一途に学んできた芸術を、世のために活かす活躍の場をプロデュースしていきます。

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『Arts Meet Science』AMSプロジェクト
 芸術と科学との出会いを通して、芸術や音楽のもつ力、それは癒しであったり、人に元気や勇気を与えるものであったり、あるいは、言語をこえる国際交流の役割といったようなものを、科学の力で見える形にしようと試みている。例えば、バイオリンの音を聞くと、リラックスできるとか、体脂肪が分解される効果があるなど科学的、医学的に音楽の効用が証明されることを期待しています。
 『タンパク質の音楽(著 深川洋一)』によると、タンパク質のアミノ酸配列を音符に置き換えた音列=メロディを植物や野菜、あるいは酵母菌に連続して聞かせると、ちょうどホルモンのような刺激を与えられ、その成長や生産量、味や品質に飛躍的な変化が確認でき、フランスなどで実験されているとあります。タンパク質の音列とクラシックの名曲には非常に類似したものが認められ、タンパク質成分であるアミノ酸の質量に対応する形で、音を当てはめていき、音が聞こえない植物や酵母、細菌などにも何らかの優位性がある可能性が期待されています。例えば、ベートーベンの交響曲『田園』を聞かせたイースト菌がおいしいパンを作る要因として、6つの違うアミノ酸による音の配列が、『田園』第一楽章の中にちょうど6つ同じものがある。40分を超える曲の「6つの音」が連続する確率は100万分の1になります。天才のひらめきと、ミクロの世界の現象の神秘性を感じてしまいました。タンパク質の音楽は、モーツァルトなど有名な作曲家にも見られ、これらを研究し産業に結び付けようとしています。

音楽のもつ力。
 音楽による感動は、わくわくする感じと、ジーンとする感じの大きく二つに分けられると思っています。
わくわく感というのは、ドキドキとかときめきとか期待感といった言葉でも置き換えられるもので、これは通常、音楽は緊張に向かう時に感じられるものです。一方、ジーンとする感じは、同情するとか共感を覚える、親しみを感じるというような感情で、こちらは緊張から解き放たれた時に感じられる感情です。
 名曲の数々は、この緊張とリラックスを曲の中に極めて巧みに配置することで、人々に感動を与えているのではないかと仮説。生理学では、緊張とリラックスは、筋肉の収縮運動のことを差します。鼓動は、まさしく、心筋の収縮と弛緩によって血液が体中をめぐり、生命の活動の源となり、多くの臓器はこの筋肉の収縮と弛緩、いわゆる蠕動運動によって消化活動を行っています。

 潮の満ち引き、月の満ち欠け、ヒトの一分間の呼吸数がだいたい17、8回程度で、波の寄せては返す回数とほぼ同じというデータもあります。人間の体が地球46億年の長い営みの中で、原始生物から進化し気の遠くなるような時間をかけ、自然と調和しながら、ゆっくりと進化を続けてきたわけです。
 ところが、今は子供でも夜中まで起きている生活になっています。人間が本来の自然から生まれたものであるということからすると、非常に大きなストレスになっているのではないかと。17、8世紀のヨーロッパの宮廷は、最高の作曲家によって、最高の演奏家が演奏する素晴らしい曲が受け継がれたクラシック音楽。三〇〇年の時を経て、世界中で愛され続けているというのは、クラシック音楽は人間を癒す力があり、ストレスに対しても優位に作用するという力があるに違いないと感じます。

 東日本大震災の後、仙台フィルハーモニー管弦楽団のメンバー数人で、被災者のところで演奏を聴いてもらった時、聞かれた方たちが、涙を流して感動された。被災している方たち、皆が同じように酷い目にあっているので、どんなに悲しくても人前で泣くということをすごく我慢している。しかし、音楽を聴いたことで、皆一緒に感動して涙を流すことができて、非常に気持ちが救われたということをいわれます。
 涙活という、意識的に泣くことによってストレスを解消しリラックスする活動もあり、演奏の持つ力を、多くの人たちに理解をしていただき、また支援をいただきたいと思います。

  最近では、東京芸大を身近に知ってもらうということで、ゆるキャラ「カズキチャマ」をデザイナーの坂崎千春さんが作ってくれました。彼女はJR東日本のSuicaのペンギンをデザインした卒業生です。文化的な活動を多くの人が寄付をすることにで芸術を支える欧米のような寄付文化を身近にして、将来の子供たちの教育というところに先行投資するという気持ちを持って頂きたいと思っています。P1010200

【演奏曲目】
・モーツァルト: ヴァイオリンとピアノのためのソナタ ト長調 K.301 /・マスネ: タイースの瞑想曲
・エルガー: 愛の挨拶 / ・ラフマニノフ: ヴォカリーズ /・クライスラー: 愛の悲しみ、愛の喜び
・情熱大陸

ご参加くださいました皆さまありがとうございました。 (文責:中川貴照)

【乾杯の音頭・山本充彦 氏】
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【例会・懇親会の模様】

【SpecialThanks】
懇親会でのケータリングを直前までご用意いただいたサダキデリのスタッフの皆様、キリンビールのご手配をいただいた三國幹事、ありがとうございます。サダキデリはこちら

次回の例会は、10月12日(金)
帝京大ラグビー部の岩出監督の講演を予定しております。また皆様とお会いできることを楽しみにしております。※講演内容等については、変更になる場合がございます。

【和歌山自慢・お知らせコーナー】

【「粘菌」展  南方熊楠作の標本も】
https://www.walkerplus.com/event/ar0730e318052/
「変形菌」とも呼ばれ、アメーバになったりキノコのような姿にも変身。朽ちた木や落ち葉などに現れる微生物「粘菌」の不思議で興味深い世界に迫る特別展。

【おもしろ科学まつり ― 和歌山大会の出展募集!】
https://www.kagaku-wakayama.com/omoshiro2018/
『青少年のための科学の祭典 ― 2018おもしろ科学まつり ― 和歌山大会』を開催するにあたり、青少年のための科学の祭典・和歌山大会実行委員会は、出展にご協力いただける出展者様を広く募集しております。
「おもしろ科学まつり」では、これまでも、和歌山県内の学校・教育機関、行政、企業、団体の皆さまを中心にご協力をいただいておりますが、さらに本会の魅力を高め、青少年のための科学教育を促進するためには、皆さまのご協力が必要であると考えております。

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